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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)306号 判決 1968年11月28日

原告

藤岡宗一

ほか一名

被告

株式会社ホンダエクスプレス

主文

一、被告は、原告藤岡宗一に対し金四四二、二五六円および内金四一二、二五六円に対し昭和四三年二月一八日から、原告上田順也に対し金八五、〇〇〇円および内金七〇、〇〇〇円に対し昭和四三年二月一八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一、原告らのその余の請求を棄却する。

一、訴訟費用はこれを四分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

一、この判決の第一項は仮りに執行することができる。

一、但し、被告において原告藤岡宗一に対し金三二〇、〇〇〇円、原告上田順也に対し金六〇、〇〇〇円の各担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一原告らの申立

被告は

原告藤岡宗一に対し金四六一、二五六円および内金四二二、二五六円(後記弁護士費用(報酬)以外の損害金)に対する昭和四三年二月一八日(本件訴状送達の翌日)から、原告上田順也に対し金三三〇、〇〇〇円および内金三〇〇、〇〇〇円(後記慰謝料)に対する昭和四三年二月一八日(本件訴状送達の翌日)から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

一、事故車の運行供用

被告は事故車を所有し自己のための運行の用に供していた。

二、運転者の使用関係

被告は車両運送の営業を営み訴外小緑を雇用し車両運送の業務に従事させていた。

三、事業の執行

本件事故当時、訴外小緑は、被告の前記営業のため事故車を運転していた。

第三争点

(原告らの主張)

一、本件事故発生

とき 昭和四二年二月一〇日午前一時五〇分ごろ

ところ 岡山県邑々郡長船町内、国道上

事故車 大型貨物自動車(三重一あ二一二七号)

運転者 訴外小緑良和

受傷者 原告上田および訴外尾方謙次

態様 原告上田は原告藤岡所有の普通貨物自動車(以下、原告車という)を運転し(訴外尾方、同乗)、右国道を東進中、先行していた事故車を右側から追越すべく約三〇米手前から警笛を吹鳴しつつ接近したところ、事故車が急に右へ寄つてきたのでこれとの接触を避けるため右へハンドルを切つたところ、約一〇米下の田甫へ転落した。

二、責任原因

被告は左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

根拠 自賠法三条、民法七一五条

該当事実 前記第二の一ないし三の事実および左記運転者の過失。

運転者の過失

訴外小緑は、原告上田が約三〇米手前から警笛を吹鳴して事故車を追越そうとしているのを知りながら、故意に原告上田の進路を妨害しようとして急に右に寄つたため、原告上田は事故車との接触を避けようとして右へハンドルを切りブレーキをかけたのであるが、事故車の右寄りが急にしてかつ極端であつたため事故車の右を通り抜けることもまた停車することもできず、道路下に転落した。

三、損害の発生

(A) 原告藤岡の損害

(一) 受傷

傷害の内容

(1) 原告上田

右顔面挫傷兼眉毛部裂創、右耳翼切創、右肩上腕腰大腿下腿挫傷

(2) 訴外尾方

両膝部挫傷、左膝下部切創、右肘部挫傷

(二) 療養関係費 計 一七、二五六円

原告上田および訴外尾方の前記傷害の治療のために要した費用は左のとおり。

(1) 原告上田の治療費 一三、三六〇円

(2) 訴外尾方の治療費 三、八九六円

原告藤岡は肩書地で自動車運送業を営み右両名を従業員として雇用している者であるが、本件事故当時、右両名は原告藤岡の従業員としてその業務に従事中であつたので、右費用を原告藤岡が負担、支払つた。

(三) 車両関係費 計 三七五、〇〇〇円

原告藤岡は、原告車を所有しこれを前記営業のために使用していたが、本件事故により破損したため、左のとおりの損害を蒙つた。

(1) 修理代 二〇一、二八〇円

(2) 田甫から道路への引揚代 一八、〇〇〇円

(3) 岡山より大阪への牽引代 一五、〇〇〇円

(4) 修理期間中の代車賃料 一二一、一〇〇円

(5) 雑費 一九、六二〇円

内訳は別紙明細書のとおり。

(四) 弁護士費用

原告藤岡が本訴代理人たる弁護士に支払うべき費用は次のとおり。

着手金 三〇、〇〇〇円

報酬 三九、〇〇〇円

計 六九、〇〇〇円

(B) 原告上田の損害

(一) 精神的損害(慰謝料) 三〇〇、〇〇〇円

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 前記の傷害を受け、一応治癒したものの右顔面部が黒ずんだままで切創部にはケロイド症が残つている。

(2) 原告上田は独身である。

(二) 弁護士費用

原告上田が本訴代理人たる弁護士に支払うべき費用は次のとおり。

報酬 三〇、〇〇〇円

(被告の主張)

(一)  被告小緑が事故車を運転して、原告ら主張の日時ごろ、同所を通過したことはあるが、原告上田がこれを追越そうとしたか否かは知らないし、ましてその進路を妨害する目的で故意に急に右に寄つた事実は存しない。

(二)  原告上田がその主帳のとおり田甫に転落したとしてもそれは同人自身が無理な追越を行おうと試みてハンドル操作を誤つたためであろう。

第四証拠 〔略〕

第五争点に対する判断

一、本件事故発生

とき 昭和四二年二月一〇日午前一時五〇分ごろ

ところ 岡山県邑々郡長船町内、国道上

事故車 大型貨物自動車(三重一あ二一二七号)

運転者 訴外小緑良和

受傷者 原告上田および訴外尾方謙次

態様 左記のとおり。

(1)  右国道は、全幅約一一米、アスフアルト舗装部分約九米の見透しのよい直線道路であり、中心線により東行車道と西行な道に区分されている。

(2)  原告上田は、原告車を運転し(訴外尾方、同乗)、右東行車道を東進中、約三〇米位前方を先行していた事故車を追越すべく西行車線に入り時速六五粁位に加速していつたところこれを察知した事故車の運転手訴外小緑が、その時から約半時間前位に原告上田と「進路を妨害した、しない」と云つて口論をしていたことから、原告上田に追越させまいとして中心線ぞいに寄つて進行したうえ、更にハンドルを右に切つて原告上田の進路に接近する態勢を示したので、危険を感じた原告上田はハンドルを右に切つてこれを避けんとしたが、そのまま道路下へ転落した。〔証拠略〕

証人小緑の証言中、右認定に反する部分は原告上田の供述と対比して採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

二、責任原因

被告は左の理由により原告に対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

根拠 自賠法三条、民法七一五条

該当事実 上記一の事実および前記第二の一ないし三の事実。上記一に認定した本件事故発生の状況に照らせば、訴外小緑が追越させまいとしてあえて原告上田の進路に接近していつたことが本件事故発生の要因となつていることは明らかであり、他に特段の事情の主張、立証されない本件においては、被告は右各法案に基く責任を免れないものと解するのが相当である。

三、損害の発生

(A)  原告藤岡の損害

(一) 受傷

傷害の内容

(1) 原告上田

原告ら主張のとおり。(〔証拠略〕)

(2) 訴外尾方

前同。(〔証拠略〕)

(二) 療養関係費 計一七、二五六円

原告上田および訴外尾方の前記傷害の治療のために要した費用は左のとおり。

(1) 原告上田の治療費 一三、三六〇円

(2) 訴外尾方の治療費 三、八九六円

原告藤岡主張のとおりの事実が認められる。(〔証拠略〕)

(三) 車両関係費 計 三七五、〇〇〇円

原告藤岡は、原告車を所有しこれを前記営業のために使用していたが、本件事故により破損したため左のとおりの損害を蒙つた。

(1) 修理代 二〇一、二八〇円(〔証拠略〕)

(2) 田甫から道路への引揚代 一八、〇〇〇円(〔証拠略〕)

(3) 岡山から大阪への牽引代 一五、〇〇〇円(〔証拠略〕)

(4) 修理期間中の代車賃料 一二一、一〇〇円(証拠 前同)

(5) 雑費 一九、六二〇円

原告主張のとおり。(〔証拠略〕)

(四) 弁護士費用

原告藤岡はその主張の如き費用を支出し債務を負担したものと認められる。

しかし本件事案の内容、審理の経過、前記の損害額に照らすと被告に対し本件事故による損害として賠償を求め得べきものは、着手金二〇、〇〇〇円、報酬三〇、〇〇〇円合計五〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。(〔証拠略〕)

(B)  原告上田(二七才)の損害

(一) 精神的損害(慰謝料) 七〇、〇〇〇円

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 前記原告上田の傷害の部位、程度と治療の経過(入院二日、昭和四二年二月一五日から同月二〇日までの間に通院三回、右眉毛部、右耳翼部各縫合)。

(2) 事故後半月位身体が痛んだため欠勤し、右額面はしばらく黒ずんでいた。

(3) 本件事故の態様。

(〔証拠略〕)

(二) 弁護士費用

原告上田は、その主張の如き債務を負担したものと認められる。

しかし本件事案の内容、審理の経過、前記の損害額に照らすと被告に対し本件事故による損害として賠償を求め得べきものは、一五、〇〇〇円と認めるのが相当である。(〔証拠略〕)

第六結論

被告は、原告藤岡に対し金四四二、二五六円および内金四一二、二五六円(後記弁護士費用(報酬)以外の損害金)に対する昭和四三年二月一八日(本件訴状送達の翌日)から、原告上田に対し金八五、〇〇〇円および内金七〇、〇〇〇円(前記慰謝料)に対する昭和四三年二月一八日(本件訴状送達の翌日)から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。

訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行および同免脱の宣言につき同法一九六条を適用する。

(裁判官 上野茂)

〔別紙明細書〕 雑費明細表

<省略>

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